Cosi fan tutte
年下は恋愛対象外。
どんなに、人間的にグッとくる方であっても、
年下だと、どうしてもダメ。生理的に受け付けられない。
こればかりは、どうしようもない。
さて、はなから年下と思っていて、あまりその気になっていなかったI氏。
手ごたえのある会話や落ち着いた雰囲気。
細やかな気遣い。男の可愛げも充分に備えている。
ただ、「年上だったらいいのに」とは思ってもみなかった。
対象外は対象外以外のなにものでもないから。
お姉様ライクに、仲の良い友人に・・・と思っていた。
なのに、ここで大どんでん返し。
少しでも「年下で残念だわ」と思っていたら、
すぐに気持ちを切り替えられたかもしれない。
でも、そんな気持ちは無かったので、
いいえ、無いと思っていただけで、
その実、私自身すら気がつかなかった思いがあったのか、
驚きとさまざまな感情が間欠泉のように吹き上げてきて、
何が何だか頭の中はパニック。
平静を装っているけれど、内側は動揺している。
もちろん、年上とわかっただけでは、急転直下にはならない。
まだ私自身の心の中で解決しなければいけないことはたくさんある。
けれども、まずは一つ燻っていたものが消えたというか、
逆に燃え盛ったというか、
私とI氏との関係が、別のステージに移行されつつあるのは感じとれる。
I氏に、手を握られた。
「一次面接は、合格ですか?」
「あの、いえ・・・」
「チューしませんか?」
「えっ?」
ここで?
「さ、お荷物を持って下さい。出ましょう」
連れ去られるように席から立たされ、会計も済まされて、
バーを出た。
エレベータホールで抱き寄せられる。
ドアが開き、中にそのまま入れられて、唇を重ねられる。
私は抵抗無く、I氏のキスを受け入れた。
「上手だ・・・」
I氏が、初めて私に対して、上の方から言った。
というよりも、私の姉ぶった、偉ぶった気持ちがとり払われ、
素直に降りたと言うべきか。
エレベータを出ると、二人とも良く使うホテルなので、
自然な距離をとり、ホテル内を移動して出口へ。
車寄せから離れると、再び手を握られ、ひと気の無いほうに歩いていく。
人の声が少しずつ小さくなっていく。
歩道から、植栽の方へ引っ張られた。
「あの・・・」
「myさんのような方を、こんなところに連れてきて申し訳ない。
でも、多少の強引さは、myさんには必要でしょ?」
図星である。けれどそんなことを簡単に認めるわけにはいかない。
口から出るのは弱弱しい抵抗。
「でも、そんな・・・こんな場所」
カラダを引き寄せられて、あらためて唇が重なる。
行動は強引なのに、キスは柔らかい。
「一次面接は合格ですね」
「・・・」
「言わなくてもいいですよ、
こんなに上手にキスを返してくるのですから」
急に歩かされて、貧血を起こしそうな上に酔いも回ってきている。
ふらりとカラダが傾きそうになるのを、太い腕が抱える。
その腕が下に降りて、腰からウエスト、背中と這う。
「素敵なボディライン。二次面接で拝見させていただきたい」
「早急な・・・」
「myさんは私のファム・ファタルですよ」
「大げさな・・・ドン・ホセとでも?」
「こんなところで、キスをさせている」
「連れ込んだのは、Iさんだわ」
「myさんが魅力的過ぎるからですよ。いい女を逃すわけにはいかない」
「本当に強引なのね」
強引といいつつも、耳元での艶めく口吻に私は抵抗感を失っていく。
I氏の手のひらが、カラダを弄る。
「二次面接では、直接触れさせて」
「一足飛び過ぎだわ」
「でも、もうこうしてる。
ホンの少し前までは、あんなにも頑なだったのに・・・
myさんの心境の方が劇的です。何故でしょう」
「コシ・ファン・トゥッテかしら」
「"女とは皆こうしたもの"・・・ですか」
落ちるときは落ちる。どんなにあがいても。
私も女。
「次はいつ会えますか?二次面接を受けさせてください」
「それは、今すぐには・・・」
「スケジュールの調整は、私はなんとでもなりますから。
myさんに全面的に合わせます。
私、myさんの知性ある女の艶の虜になりました。
是非に是非に(笑)」
是非にと言われても、キスをされても、抱きしめられても、
飛び込むことが出来ない。
I氏に、問題があるというのではない。
問題があるのは、私の方。
恋は急に来るものだけれど、ふっと降りてくるものだけれど、
このままでは、恋愛できない何かひっかかるものがある。
それが何であるか、まだつかめなかった。
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